多様なBOM(部品表)と製造業における重要性

多様なBOM(部品表)と製造業における重要性    2025.11.27

 
 前回のコラムでは『PDMシステムと生産管理システムの連携』について書かせていただきましたが、今回は「BOM管理」に焦点を当てていきたいと思います。製造業において、製品の設計から製造までのプロセスをいかに効率的に連携させるかは、競争力を左右する重要なテーマです。特に、部門間で情報の齟齬が生じると、手配ミスや品質トラブル、納期遅延などのリスクが高まります。その情報連携の要となるのが「BOM(部品表)」です。設計部門が管理する「E-BOM(Engineering BOM)」と製造部門が必要とする「M-BOM(Manufacturing BOM)」など、各BOMの違いを正しく理解し、適切に運用することが生産性向上に直結します。

 

Ⅰ.BOMの形

 BOMは、製品を構成する部品や材料を体系的に整理した情報基盤です。その表現方法には大きく2つの形があります。

・ストラクチャー型(階層型BOM):
  製品をトップに置き、下位に部品や材料を階層的に展開する形式。
  製品構造を直感的に把握でき、設計や変更管理に適しています。

・サマリー型(集計型BOM):
  部品や材料を階層構造ではなく、必要数量を集計して一覧化する形式。
  購買や在庫管理に向いており、資材調達の効率化に役立ちます。

両者は用途に応じて使い分けられ、設計部門と生産管理部門の橋渡しをする重要な役割を担っています。

 

Ⅱ.BOMの種類

 代表的なBOMには、設計段階のE-BOMと製造段階のM-BOMがあります。

・E-BOM(Engineering BOM):
  設計部門が作成。CADや設計図に基づき「製品が何で構成されているか」を表す。

・M-BOM(Manufacturing BOM):
  生産部門が作成。製造工程に合わせて「製品をどう作るか」を表す。

 上記2つに加え、実務ではさらに多様なBOMが存在します。

・P-BOM(Purchasing BOM):
  資材・調達部門が使用する。
  購入品や外注品の調達に必要な情報を整理し、仕入先や納期を管理。

・S-BOM(Service BOM):
  サービス・保守部門が使用する。
  修理や保守に必要な部品構成をまとめ、アフターサービスで使用。

・C-BOM(Configurable BOM):
  営業・設計部門が使用する。
  顧客の選択やオプションに応じて構成が変わる製品に対応。

このように、BOMは製品ライフサイクル全体に関わる多面的な情報基盤となっています。

BOM種類用途作成部署含まれる情報
E-BOM 製品の設計構成を定義 設計部門 設計図、CADデータ、部品構成、機能単位、設計変更履歴など
M-BOM 製品の製造工程に展開 生産部門 組立順序、作業単位、工程情報、資材所要量、製造指示など
P-BOM 購入品・外注品の調達管理 資材部門
調達部門
手配数、仕入先、価格、納期、購買履歴、 発注条件など
S-BOM 製品の保守・修理対応 サービス部門
保守部門
交換部品、サービス部品、保守対象部品、対応履歴など
C-BOM 顧客仕様に応じた構成管理 営業部門
設計部門
オプション構成、選択可能部品、バリエーションルール、構成条件など

 

Ⅲ.BOM同士のつながり

 各BOMは独立して存在するのではなく、製品ライフサイクルの中で相互に連携しています。

・E-BOM → M-BOM:
 設計情報が製造工程に展開される。
 設計変更が正しく反映されなければ現場で誤った部品が使われるリスクがある。

・M-BOM → P-BOM:
 製造に必要な部品のうち、購入品や外注品が抽出され、調達部門で管理される。

・E-BOM・M-BOM → S-BOM:
 設計・製造で定義された部品のうち、 交換可能なものがサービス部門に展開される。

・C-BOM → E-BOM・M-BOM・P-BOM:
 顧客仕様に応じて構成が変わり、それが設計・製造・調達に反映される。

このように、BOMは「設計 → 調達 → 製造 → サービス」という流れを情報面でつなぐ役割を果たしているのです。

 

Ⅳ.製造業にとってのBOM管理

 製造業における競争力は、設計から生産、サービスまでの一貫した情報管理にかかっており、その中心にあるのがこれまでご紹介した各種BOMです。BOMは、以下の点を意識して情報の精度を高めることが重要です。

 正確性:誤ったBOMは不良品やコスト増を招く
 一貫性:設計・製造・サービスで異なるBOMを整合させる必要がある
 柔軟性:顧客ニーズや市場変化に応じて迅速に更新できる体制が求められる

 ここまで、BOMの種類や重要性、違いについて紹介してきましたが、実際の業務においては、あまり厳格に区別せずに管理されていることもあります。例えば、ある品目を製造するために必要な部品や工程とその手配先をまとめて管理し、生産部門と資材部門がM-BOMとP-BOMの区分けなく運用しているケースや、製品を製造するために必要な品目や工程の情報、設計図面をまとめて管理し、設計部門と生産部門がE-BOMとM-BOMの区分けなく運用しているケースがあります。

 

Ⅴ.生産管理システムにおけるBOMの役割

 生産管理システムにおいて、BOMは「製造の設計図」として機能し、具体的には以下のような点において重要となります。

・資材所要量計算(MRP)の基礎データ
・工程設計・工順管理との連携
・在庫管理・購買管理の精度向上

 例えば、製造計画や受注に対して必要な作業指示データや購買データを作成するために所要量計算を行った場合、製品の構成情報や工程の情報はM-BOMに類するマスター情報から引用され、手配先や品目の発注単価はP-BOMに類するマスター情報が引用される形になります。

 このように、生産管理システムの中ではこれまで紹介した様々なBOMの情報を持ち、それらを組み合わせながら過度に区別せずに情報を管理することができます。なお、業務や部署ごとに異なるシステムを使っている場合、BOMを二重管理することになり、システム間で二重入力、連携のエラーが発生することがあります。そういった場合でも、他システムとも連携可能な生産管理システムを利用することにより、各システムで管理可能なBOM同士を連携し、一貫性のある情報管理を実現することができます。

 

まとめ

 製造形態や情報の管理が複雑化・多様化する現代の製造業において、BOMを正しく理解し、部門横断で活用できる体制を築くことが、品質・コスト・納期(QCD)の最適化につながります。製造業の未来は、情報のつながりによって形づくられます。そのため、BOM管理は単なるデータ管理ではなく、企業の競争力を左右する戦略的な取り組みといえるでしょう。
 今こそ、BOMの見直しと連携強化に取り組んでみてはいかがでしょうか。


 株式会社エクスでは、生産管理システム『Factory-ONE 電脳工場』を通じて、M-BOM・P-BOMの管理・運用を支援するのはもちろん、PDMシステムとの連携により、E-BOMの管理・運用もご提案しております。各種BOMの情報連携に課題を感じている企業様は、ぜひ一度ご相談ください。