生産管理から考える”ROA向上” ~逆風の時代における製造業の生存戦略~

 

生産管理から考える”ROA向上”    2025.06.26
~逆風の時代における製造業の生存戦略~


 近年、人件費の上昇や原材料の高騰、さらにはトランプ関税など、日本の製造業をとりまく経営環境は厳しさを増しています。こうした状況下では、単に「売上を伸ばす」だけでは利益を確保することが難しくなっており、むしろ、限られた資源をいかに効率的に活用し、収益性を高めるかが企業の生き残りと成長の鍵を握るといえます。特に製造業は、生産現場の改善が企業全体の収益に直結するため、「生産管理」の視点からさまざまな見直しや取り組みを行うことが、これまで以上に重要になってくると思われます。

 本コラムでは、生産管理の視点から企業の競争力を高めるためのアプローチとして、『ROA(Return On Assets:総資産利益率)』に注目し、ROA向上に向けた具体的な取り組みをご紹介します。

 

Ⅰ.ROAとは何か

 ROAとは、企業が保有するすべての資産を使ってどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標です。計算式は以下のように表されます。

ROA(%)= 当期純利益÷総資産 ×100
 

 この数値が高いほど、企業は少ない資産で効率的に利益を上げているといえます。製造業では、工場、設備、在庫などの資産が多いので、それらの活用効率がROAに直結します。つまり、ROAは単なる財務指標ではなく、現場の運用や改善活動の成果を反映する「経営の健康診断書」ともいえるのです。

 

Ⅱ.生産管理における、ROAを高める取り組み

 ROAを高める為には、1. 売上の向上 2. 原価の削減 3. 資産の抑制、の3つの要素が基本となります。この3つの要素のうち、生産管理と密接に関わるのは「原価の削減」と「資産の抑制」です。では早速、生産管理の視点からROA向上に寄与する7つの具体的な取り組みをご紹介します。

A.設備稼働率の改善
工場内に高額な設備が設置されていても、全く使われていなかったり、整備不良による不調があったりすると、資産は無駄遣いとなり、ROAを下げる要因になります。設備の稼働率を高めるためには、定期的なメンテナンスによる故障の予防、段取り替えの短縮、稼働スケジュールの最適化などが有効です。設備の稼働率が高まると、効率よく多くの製品を製造することができ、3つの要素のうちの「原価の削減」や「売上の向上」に繋がります。また、近年ではIoTセンサー技術を活用して設備の稼働状況を可視化し、異常の早期発見ができる異常検知システムの導入が進んでいます。

B.品質管理の徹底
品質不良は、再作業や廃棄、クレーム対応、返品など、原価圧迫を招くだけでなく、顧客満足度の低下による売上減少にも繋がり、ROAを二重に悪化させる要因となります。品質を確保するためには、作業内容の整備、教育訓練の徹底、工程内検査の強化、そして不良の見える化を行うことで、品質水準の向上や現場の人々の意識改革に繋がり、「原価の削減」を実現することができます。また、近年ではAIを活用した画像検査やビッグデータによる不良要因の分析も注目されています。

C.調達活動の効率化
購買・調達業務は、コスト構造と資産効率に大きく影響する重要な業務です。必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ手配できないと、製品が完成するまでの期間(リードタイム)が長くなり、販売機会の損失や顧客満足度の低下、そして仕掛品や材料など、滞留在庫の増加による無駄な資産が膨らみかねません。また、高い材料や部品を購入すると、製造原価へダイレクトに反映されることになります。「原価の削減」や「資産の抑制」に繋げるためには、サプライヤーとの価格交渉や契約条件の見直し、最適な発注ロットの設定、納期調整の迅速化、複数のサプライヤーを比較・評価するといった調達プロセス全体の最適化に向けた取り組みが必要となります。

D.作業の標準化
現場の作業が属人化している場合、主担当者が休んだり、退職した際に製造パフォーマンスが落ちてしまい、原価を圧迫したり、リードタイムが遵守できなくなる可能性があります。属人化から脱却し、「原価の削減」に繋げるためには、「作業の標準化」を行うことが必要です。たとえば、マニュアルの整備や教育カリキュラムの見直しなどの取り組みを行い、一部の担当者しか出来なかった作業を誰もができるような環境をつくることが重要です。近年では、ツールや動画を活用してマニュアルの充足や整備を行っている企業も増えています。

E.工程の最適化
現場で作業を行う際に重要なことは、効率よく作業を行うことです。
作業の準備時間や待ち時間等を考慮し、いかに設備や人等のリソースを効率よく動かせるかが「原価の削減」や「リードタイム短縮」に必要なことです。製造業では、ボトルネック工程というパフォーマンスが著しく低下させる工程を改善するために、『TOC理論(Theory of Constraints:制約条件の理論)』を活用することがあります。TOC理論とは「業務やシステム全体のパフォーマンスは一番の弱点である制約条件によって決まるので、制約条件となっている部分を改善し続ければパフォーマンスは上がる」という考え方です。つまり、ボトルネック工程の改善が業務全体の改善、向上に繋がると捉えられます。まずは、なぜパフォーマンスが著しく低下しているのか(人材のスキル、オペレーション、生産条件等)原因を追求し、改善策を見つけることが重要です。近年では「スケジューラ」等のシステムを利用することで、優先順位に応じた設備や人の最適なスケジューリングを行い、生産効率を向上させ、リードタイム短縮を実現している企業もありますが、パフォーマンス低下の原因や社内のボトルネックを明確化しない限り、期待するほどの効果は発揮できない可能性があります。

F.生産方式の見直し
製造業においてはさまざまな生産方式が存在します。たとえば『セル生産方式』は、1人または少人数の作業者のユニットで完了する生産方式です。これに対して『ライン生産方式』は、工程ごとに作業者が決まっており、製品が流れていく中で順番に作業を行っていく生産方式です。多品種少量生産や、生産量に合わせた稼働を目的にした生産の場合、セル生産方式が適しています。消費者ニーズが多様化している中、自社の業態や生産形態の変化を踏まえた適切な生産方式を選択することで、効率的なものづくりが行え、「原価の削減」「資産の抑制」に繋がります。

G.在庫の適正化
在庫は「資産」ですが、眠らせれば無駄な「コスト」になりえます。特に製造業では、部品、仕掛品、完成品など多様な在庫が存在し、大きく影響を与えます。過剰な在庫は資産を眠らせるだけでなく、保管スペースや管理工数が増える等、ムダが増え、ROAを下げる要因になります。また、陳腐化や劣化による廃棄のリスクも発生し、製造原価を圧迫する可能性もあります。

では今回は、適正在庫を維持するための取り組みを3つご紹介します。
(1)在庫の分析、分類
ABC分析で、在庫を「A:重点的に管理」、「B:AとCの間」、「C:管理をゆるめる」等と分類し、Aの在庫は欠品を絶対に起こさないように発注業務を行ったり、高頻度で棚卸を実施したりします。在庫によって優先度を決め、管理を強化する方法があります。
(2)需要予測の向上
過剰な在庫を抱えたり、欠品が発生したりする原因としては、発注精度に問題がある可能性があります。現状だけでなく、先々の状況を踏まえて発注数や頻度のコントロールを行うことが重要です。精度を高めるために、AIを使って需要予測を行い、発注精度の向上に取り組む企業も増えてきていますが、これには過去の発注情報や在庫状況の分析が非常に重要といえます。
(3)定期的な在庫棚卸
廃棄や長期在庫の状況を確認するために、定期的な棚卸が大事です。(1)の在庫の分析、分類で記載したように、在庫を優先度で分類し、分類に応じた棚卸の頻度をルール化することで、「資産」として計上ができる在庫の管理を徹底することが可能です。

 適正数の在庫を管理し、在庫回転率を上げることで、「原価の削減」と「資産の抑制」が実現でき、ROA向上に繋がります。在庫は「持つこと」よりも「動かすこと」が何より重要です。

 

Ⅲ.現場と経営を繋ぐ、ROAの視点

 これまでに、ご紹介した取り組みをまとめると以下のようになります。

取り組みROAの向上対応例
原価の削減資産の抑制
1 設備稼働率の改善 定期メンテナンス、段取り短縮、IoT活用など
2 品質管理の徹底   教育訓練、工程内検査、AI検査、不良の見える化
3 調達活動の効率化 サプライヤーとの交渉、納期調整の迅速化など
4 作業の標準化   属人化防止、マニュアル整備、教育カリキュラム
5 工程の最適化 ボトルネック改善、スケジューラ導入など
6 生産方式の見直し 市場変化、自社にあった柔軟な生産対応
7 在庫の適正化 ABC分析、需要予測、棚卸、在庫回転率向上

 

 ROAというと、経営層や財務部門が扱う指標という印象を持たれがちですが、実際には現場の改善活動がダイレクトに反映される指標でもあります。無駄の削減、稼働率の向上、不良の低減といった日々の取り組みが、企業全体のROA向上に貢献しているのです。だからこそ、自社の生産プロセスに関わるすべての人がROAの意味を理解し、意識を持って業務に取り組むことが、企業の競争力や成長力の強化に繋がるといえます。

 

まとめ

 ROAは単なる財務指標ではなく、企業の「効率よく稼ぐ力」を可視化する重要な指標です。生産管理の視点からROAを意識することで、コスト削減だけでなく、売上向上や顧客満足度の向上にも繋がります。企業全体でROA向上に向けた取り組みを推進することで、厳しい経営環境の中でも持続的な成長と競争力の強化が可能となるでしょう。


 弊社は創業以来約30年にわたり、生産管理システムの『Factory-ONE 電脳工場』をご提供してまいりました。国内2000本を超える導入実績をもとに、業種業態を問わず、最適な運用提案を通じて、お客様のROA向上を支援しております。また、具体的なアプローチ方法として記載した「異常検知システム」や「スケジューラ」等のソリューションに関しても、弊社サービスライブラリー『EXfeel』にて掲載しております。現場と経営を繋ぐパートナーとして、製造業のIT活用についてお困りの点があれば、お気軽にお問い合わせください。