創 立 1891年 タルタルガ 代表 松本 善博 氏 インタビュー


大阪にタルタルガというオーダーメイドのシューズショップがあります。1891年に靴の必要性を感じた現代表の祖父 松本小衛氏が靴屋を創業したのがはじまりです。
長い間、甲高、幅広だった日本人の足が、少しずつ変り、低く幅が狭い若い女性達が増えているそうです。
その足に合う靴を常に追求し、熟練の技術をもって素晴らしい靴を提供されているのが代表の松本善博氏です。

今回はその靴造りへの思いや、情熱についてインタビューさせていただきました。

【エクス編集員】
長い歴史をもつタルタルガですが、まだまだ和装も多かった明治時代に西洋の靴を提供するきっかけとなった事はなにですか?

【松本氏】
私の祖父の時代に洋服文化が入ってきて元々呉服店だったのですが、
周りに洋服を扱う方が増えてきたんです。
そこで西洋の服には西洋の靴を求める人も増えてくるだろうというところに着目したようで、
靴を扱うようになったんです。

【エクス編集員】
草創期に提供されていた靴と、現代に求められる靴の違いは何だと思われますか?

【松本氏】
昔は靴という形を造るということで精一杯だったと思います。
しかし、現在では靴がファッションの一部だということが大前提にあり、
ファッション性はもちろんのことなんですが、
日本人が靴の履き方ということをやっと理解しだしたように思います。

これは個人的な見解なんですが、日本人は靴を脱いで家に入るという文化がありますので、
「履くときに履きやすく、脱ぐときに脱ぎやすい」そういう靴を強く求める傾向がありますよね。
それに加えて綺麗に歩くためにはどいういう靴が良いのか?
そういうところを求める傾向がやっとこ芽生えてきたと感じています。

そこで私が着目したのは市場に売っていない靴のマーケットって何だろう?
それを考えた時に「足の幅が細くて、甲の低い」そういった足の方が二割程度いらっしゃると思ったんです。
そしてそこにターゲットを絞った靴を提供しようと考えたんです。
日本の市場にない靴、それを作るのが私の使命だと感じておりますし、
そういった靴を求める方がこれからも必ずいると思っています。

【エクス編集員】
婦人靴に特化されているタルタルガですが、何か特別な思いがあってのことですか?

【松本氏】
もともとイタリアで靴の修行を重ねたのですが、
婦人靴のデザインのほうに興味をもったんですね。
それはやはり女性のファッションのほうが変化に富み、バラエティがありますので、
そういったところから興味が強くなって自分が得意とするものになったということが一番のきっかけだと思います。

男性の履く靴はどうしても社会性が強くデザインで遊べない。
そいったところが婦人靴を中心につくるきっかけになりました。

【エクス編集員】
オーダーメイドでの靴の製作において、最も重要視されていることは何ですか?

【松本氏】
素材と色にこだわる事、そして150以上ある工程を
どれだけ精度を上げて丁寧につくりこんでいくか。
これが一生続く課題だと思っています。

革というのは、硬い部分もあれば柔らかいところもあり、
伸びる部分もあれば、あまり伸びない部分もあるので、
それを両足均等につくりあげるというのが、とても難しいんです。
片方だけつくるのであれば、とても楽なんですが、
履いたときに両足で同じ履き心地を感じていただけないと靴ではありませんので・・。

木型に革をはりつけて、3日間ねかせます。メーカーさんでは1日間だけですが、
私はそれだけ時間をかけて丁寧に作りこむことでほかに無い、履き心地の良さを追求しております。

【エクス編集員】
今まで靴に携わり続けてきて、一番苦労されたこと、一番嬉しかったことは何ですか?

【松本氏】
一番大変なのは職人を育てあげることですね。
マニュアルを用意して誰でも仕事を引き継げるというようなやり方はどうしても無理なんですよね。
職人というのは己の手に技がつきまとうものなので、完全に勘の世界なんですよね。
それを口で説明するのは到底無理なことなんです。
指先の感覚はやっぱりマニュアル化できないですよね(笑)

一番嬉しいのは、自分のつくったものが完全にフィットして、喜んだ顔を見ることです。
そして繰り返し来店していただけるようになってもらえればなお更嬉しいですね。

【エクス編集員】
もし靴に携わってなかったら・・?

【松本氏】
たぶん立体造型のデザイナーになっていたと思います。
たとえばドアのノブであったり、ハンガーなど、そういうことをしていた様に思います。
やはり平面デザインよりも立体デザインのほうが好きですね。

【エクス編集員】
職人として一人前になれたと感じたのはどういった瞬間でしたか?

【松本氏】
ないです。死ぬまでないです。自分が満足できたら、それで終わりですよね。
そこで成長は終わってしまいます。
ですから、満足できないまま死んでいくと思いますね。(笑)

【エクス編集員】
職人さんを育てることが一番苦労されるとのことですが、
それ以外で悩んだり苦しんだりするということはありませんか?

【松本氏】
職人ってお金儲けが下手で・・だからお金に困りますね(笑)
造れるんですが売り下手なんですよね(笑)
造ってそれをプロデュースして売れる流れを作ることができれば鬼に金棒なんですけどね(笑)

【エクス編集員】
これから挑戦していきたいことはありますか?

【松本氏】
たくさんあります。メンズも本当はやりたいですし、子供靴もやりたいです。
15歳までの方の足は幅細、甲低になってきていると思うので、
もっと多くの方に、しっかり足にフィットしてくる靴をつくりたいですね。
夫婦でこられるお客様に「メンズはやっていないのですか?」と言われてしまうこともあるので、
メンズもやってみたいとは思っているんですよね(笑)

【エクス編集員】
人が靴を選ぶ時、やはり最初は見た感じから入ると思うのですが、
人を惹きつけるデザインとはどういうものだと思われますか?

【松本氏】
やはりその時代の流行にマッチしたテイストを表現できているものですね。
私自身のこの秋の方向性としては、少しエスニックで女性的なイメージです。
あとは市場調査をした上で足先のテイストなどを今の流行に近づけるような靴を模索しています。

~取材を終えて~
好きな色は何ですか?
という問いに松本氏は赤と答えられました。
その理由は赤は攻めの色だからだそうです。
常に攻めの姿勢で挑む心意気を忘れずにいたい。
創造し、新たなものを生み出す。
その意識を常に高く保つためにはやはり攻めの気持ちが必要なんだと感じました。

タルタルガの靴で私が感動したのは見栄えだけでなく、
細やかな気遣いがデザインに見えるところでした。
通常、市場に出回っている靴はそのブランドのロゴが靴底に刺繍されたりしていますが、タルタルガの靴は切れ目をめくると、
それが見えるようなデザインになっています。
これはタルタルガのアイデンティティを表現しつつ
実際に履く人のためにその凹凸の違和感を
少しでも軽減するためのデザインだと私は解釈し、とても感動しました。
人の優しさを足元で感じることができる靴。
それがタルタルガではないでしょうか。

[タルタルガ]